2015年8月23日日曜日

【コラム】サルでもわかる「混合診療」と「患者申出療養」

こんにちは。スマイリーの片木です。
いよいよあと1週間ほどで8月も終わりですね。

タイトルはふざけていますが、みなさんに知ってほしい真面目な話を書いています。
私のフェイスブックの投稿の転載なので分かりづらいところもあるかもしれませんが、お時間あるときに読んでいただき、こんな問題があるのだということを知っていただけたら幸いです。

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2015年8月21日、全国がん患者団体連合会(全がん連)と日本難病疾病団体協議会(JPA)が保険診療と保険外の自由診療を併用する混合診療の対象を拡大する「患者申出療養制度」に関して記者会見を行ないました。

共同通信の記事
有効、安全なら保険適用を 混合診療拡大で患者団体
保険診療と保険外の自由診療を併用する混合診療の対象を拡大する「患者申出療養制度」に関し、がんや難病の患者団体は21日、東京都内で記者会見し、有効・安全と確認した治療法は速やかに保険を適用するよう求める意見書を発表した。
患者申出療養は来年4月に始まり、厚生労働省の詳細な制度設計が来月にもまとまる。意見書は全国がん患者団体連合会と日本難病・疾病団体協議会が発表。有効・安全な治療法が患者申出療養のまま保険適用されないと、自己負担が軽減されず、経済力のある患者しか受けられなくなる恐れがあると指摘した。
http://www.47news.jp/CN/201508/CN2015082101001801.html

この共同通信さんの記事でもわかるように、「患者申出療養制度」と「混合診療」は極めて似ているので、ここから先は「混合診療」でほぼ表記を統一して文章を書いていきます。

「混合診療」は、一見、「患者がお金を出せばいい治療を受けられるいい制度」なのになぜ患者会は反対するの?

ここを解明しないと、患者会の声明を読んでも理解ができないのではないかと思い、サルでもわかる「混合診療」と「患者申出療養」を執筆しました。


1)保険診療について(お薬を例に)

みなさんが病気になり病院を受診するときに多くの方は病院の窓口で保険証を提示し3割負担で治療が受けられていると思います。
これは、治療に用いられる診察や検査、お薬などにかかるいろいろな費用を保険で賄う「保険診療」です。
保険診療において、薬が必要となる場合には、国が「その病気に対して有効性と安全性の観点から承認したお薬」が使われます。

お薬が承認されるためには

  1. 薬事法(現在は医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律:薬機法)に基づき製薬企業は治験を行い国に承認してもらう
  2. 企業が治験に乗り出さない場合は医師が薬機法に基づく医師主導治験を行い国に承認してもらう
  3. 医療機関が先進医療の手続きを厚生労働省に対して行う形で、患者に一部費用を負担してもらう形での臨床試験を行いそのデータを国が評価し保険収載する
  4. 国内外で有効性・安全性が示された臨床試験があり、企業が治験に乗り出せていない医薬品に関しては厚生労働省「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」に対して、学会や患者会が開発要望を上げ、そのデータを審議したうえで、必要に応じて公知(公にその医薬品に対して有効性や安全性が示されたデータがある)の事実がある場合は、製薬企業は治験をスキップする形で承認申請を行い、承認してもらう。
  5. 国内外で有効性・安全性が示された臨床試験があり、企業が治験に乗り出せていない医薬品に関しては厚生労働省「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」に対して、学会や患者会が開発要望を上げ、そのデータを審議したうえで、医療上必要性が高いと認められた場合は、国が製薬企業に対して開発要望をすることができ、企業はそれに応えるよう勤める(開発をすれば企業にとっても新薬創出加算をつけることで開発に応えればいいことあるよ。とした。)

など幾つかの方法があります。

はい、サルでも分かると書きながら、多くの読者の方はここで白目をむいていることと思います。
(ただ治療薬が欲しいと思ってる患者会のリーダーは上記を理解していなければお話になりません)

つまりは「臨床試験(治験)が行なわれて、有効性と安全性(副作用も含む)が示されたお薬」が、承認されているのです。

臨床試験と治験についてよく分からないわというかたは、手前味噌で申し訳ありませんが、卵巣がん体験者の会スマイリーが発行した「卵巣がん患者のための臨床試験ガイド」の11ページからに分かりやすく解説してありますのでそちらをごらんいただけましたら幸いです。
http://ransougan.e-ryouiku.net/bookfile/guide.pdf


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2)ドラッグ・ラグ
いっぽうで、がんに特化して話をすると、1999年12月にある問題が持ち上がりました。

広島県の新山さんが、当時非小細胞肺がんに対して承認されていたゲムシタビン(ジェムザール)が、すい臓がんに承認されていないために使えないとして運動を起こされました。
当時、がん患者が実名で顔をだしてテレビの前に出ることはほとんど無く、新山さんの運動は「未承認薬問題」として大きく取り上げられました。
その後、悪性リンパ腫、肝臓がん、大腸がんなどでも治療薬を求める声が途切れることなくマスコミを通じて報じられることになりました。
厚生労働省もこうした世論に応えるべく「未承認薬」や「抗がん剤併用」に関する検討会を立ち上げ動きました。
患者のこうした要望運動はどんどん加速度的になっていき、がん対策基本法が施行され、がん対策推進協議会に患者も参画するような動きに繋がる大きなきっかけとなりました。

2006年9月卵巣がんに対して「ドキシル」「ゲムシタビン」「トポテカン・ノギテカン」の3剤を求める要望運動がはじまりました。
ただ、卵巣がんについては、この3剤いずれもが他の疾患ですでに承認されているお薬であることから、当時厚生労働省で開かれていた「未承認薬検討会議」では範疇外という取り扱いでした。
同じ時期に、希少難病のムコ多糖症のご家族も海外の治験に日本の男の子が参加しているににも関わらず日本では承認されない問題を訴えられていました。
双方の問題を取材していた日本テレビのニュースリアルタイムが「ノーモア ドラッグ・ラグキャンペーン」を展開し、「海外で(その疾患にたいして)承認されているお薬が、日本では承認されない」時間差をドラッグ・ラグとして報じたことで「ドラッグ・ラグ」という言葉が広がっていきました。
つまり、薬にアクセスできない問題は「未承認」だけではなく「適応外(他の病気には認められているお薬)」もあるとしたのです。

厚生労働省も2010年に「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬」を立ち上げ医学会や患者会から要望を取り上げ、医療上必要性の高いと認められた薬を開発した企業に新薬創出加算(新しく出したお薬の薬価を2年おきに下げていたものを、しばらくは薬価を維持する)をつけるなどして開発を促進しました。
卵巣がんだけでもこの会議で、ゲムシタビン、ノギテカン、エトポシド、パクリタキセルの毎週投与法、ベバシズマブが医療上必要性が高いと認められ、現在承認されています。(私たちスマイリーが他に出した要望ではデキサメタゾンの従来の小さい粒粒は嘔気がある患者さんには厳しいので、粒を大きく数を少なくするという剤径変更も承認されました)

抗がん剤のドラッグ・ラグにはひとつの特徴があります。


  1. 卵巣がんに対するゲムシタビンを例に出していうと、
  2. アメリカで卵巣がんに承認されたのは2006年
  3. 日本では当時は非小細胞肺がん・すい臓がん・胆道がんに承認
  4. 2008年に上皮性尿路がん、2010年に乳がんに承認
  5. 2011年卵巣がんに承認

つまり、「他のがんで承認された抗がん剤が、長い年月を経た後に別のがんで効果があることが分かる場合がある」のです。

ですから、近年でもパンキャンジャパンさんがすい臓がんに対してFOLFIRINOX(5-FU+ロイコボリン+イリノテカン+オキサリプラチンの4剤併用)を求める署名活動を行なうなど、他のがんで使われていたお薬が時間を経て別のがんで要望されることが起きています。

ここで忘れてはいけないのは、これまでドラッグ・ラグで訴えてきた患者会の多くが国内外の質の高い臨床試験が実施され論文化されたり、米国NCCNのガイドラインに掲載されているなどのエビデンス(科学的根拠)がある薬の承認を求めている点です。

すい臓がんのFOLFIRINOXについても2010年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)フランスの研究者らが、PRODGE4/ACCORD11/0402試験の結果として、試験では当時すい臓がんの標準的治療であるゲムシタビン単剤に対して、ゲムシタビン抜きのFOLFIRINOX(5-FU+ロイコボリン+イリノテカン+オキサリプラチン)という4剤併用レジメンが全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)で大幅に上回ったという報告をしたことなど科学的根拠を集めたうえで要望をされています。


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3)混合診療とは
保険診療が、承認されたお薬などを使っての診療ということは理解していただけたと思います。

そして、ここまでのお話で、がん患者は「がんになったからどの抗がん剤でも使える」わけではなく、「有効性と安全性(副作用)を元にそのがんに承認された抗がん剤」が治療に用いられていることは理解いただけたと思います。

では、混合診療とはどういう事例があったのでしょう?

たとえば卵巣がん患者を例にとると2006年当時、ドキシルは世界75カ国で承認され、卵巣がんに対しては1999年にアメリカで承認され、NCCNのガイドラインにも再発卵巣がんの治療薬として掲載されているにも関わらず、日本では治験が行なわれている状況で患者さんは使えませんでした。

そこで、もう日本で承認された卵巣がんのお薬を使い果たしてしまった卵巣がん患者さんは、海外で広く使われているドキシル等を個人輸入をして治療したいと思うのは人情として仕方ないと思います。

でも、もちろん、ドキシルは日本では卵巣がんに未承認(2007年にAIDS由来のカポジ肉腫で承認されているので適応外)であることから、これまで治療を受けている保険診療を行なう医療機関では、混合診療となるために治療できません。

患者さんは、自費診療を行なってくれる医療機関を探して治療を行なうことになるわけですが、当然のことながらこれまで保険で受けられていた医師の診察、注射の手技料、吐き気止めなど保険で使えていたすべてが自費になります。

もちろんそうなると医療機関の言い値になりますので、例えばドキシル1回50万、その他の費用を含めるとトータル65万という値段になり、もちろん高額療養費等もうけられません(この病院はかなり良心的な値段だと個人的には思います)。

世界で承認されている(国内でもそれなりにデータがある)お薬を保険診療で多くの患者さんが当たり前に使えるようになってほしい。
また、これからの医薬品に関しては日本も国際共同の臨床試験に参画したり、日本発の質の高い臨床試験を実施し、有効性・安全性を評価し、患者のためになるものならばできるだけ速やかに開発、承認に繋げて欲しい。

「救えるいのちを救う」

この言葉を旗印に患者会のリーダーがドラッグ・ラグ解消を求めて何度も厚生労働省に要望を行なってきたのにはこのような理由があるのです

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4)ドラッグ・ラグがあるから混合診療を容認?~なぜ患者会は反対するのか~

3)の混合診療の段を読んだみなさんは、「ドラッグ・ラグがあるのであれば、承認されるまでの間、お金を払える患者は混合診療を容認すればいいじゃないか」「患者申出療養(混合診療)は名前のとおり患者が希望すれば治療を受けられるいい制度じゃないか」と思うかもしれません。
むしろ、混合診療に反対する患者会のほうが「救えるいのちを救う」ことを阻んでいるように感じるかもしれません。
もしくは薬を売りたい製薬メーカーの手先のように感じるかもしれません。

でも、そうではありません。

私も含めて、患者会が反対するには理由があります。
少なくとも私に関しては製薬企業から多額の寄付はいただいておりません。
知りたい方はスマイリーおよび私の毎年の収入を公開(http://ransougan.e-ryouiku.net/about.html)しておりますのでごらんいただければいいかとおもいます。

私の反対している理由を下記に示します。
※()内はひと言であらわすとこれってことです。
書式限られてるんで分かりづらい表記ですみません。


  1. すでに国内外で質の高い臨床試験が実施されているようなものに関しては承認されるほうが多くの患者さんが保険診療で治療にありつける。当然ですよね。すでにデータがあるものはわざわざ混合診療にして金をむしりとらずに保険で多くの患者さんが受けられるようにするのが国の務めです。(当たり前の治療は金をまきあげんと当たり前に承認しろや!)
  2. 混合診療で金さえ払えば治療を受けれるんだからいいだろう?として、混合診療にしたまま、その薬を評価せずにずーっと保険診療にしないでいたらどうなりますか?私たちは一時的な期間でもお金払ってなんとかなるなら・・・と思いますが、それをいつ評価して保険収載するか約束されなければ20年後も30年後もその薬は自費かもしれません。そうすると収入が少ない患者さんは有効だと思われる治療にアクセスできなくなるお金によるドラッグ・ラグが起きる可能性があるのです。(金持ちだけが治療にありつける日本になるのか?)
  3. その一定期間だけでもお金を払えばといいますが、国立がん研究センターのページ(http://www.ncc.go.jp/jp/about/senshiniryo/senshiniryo_01.html)にあるように開発が期待される希少がんや小児がんのお薬の多くの薬価が極めて高額であり、超セレブじゃないかぎり負担できる額ではありません。それならば臨床試験や治験を実施するなどの別の対策を取り、エビデンスを出し承認につなげる方がよりよいのではないかと考えます。(金持ちだけが治療にありつける日本になるのか?もっと別の方法が無いのか?)
  4. 卵巣がんであるお薬の開発を製薬メーカーに要望した際に言われたのは「卵巣がんは患者が少なく、もう特許が切れる(薬価が下がったり、ジェネリックが出てくる可能性がある)この抗がん剤で治験をしても儲からないんだよね」という趣旨の言葉でした(もちろんメーカーはそれを遠まわしにいうのですが率直にいうとこうだよね?みたいな)。年間約9000人が罹患するという卵巣がんでこれです。もっと患者数が少ない病気ならなおのこと開発にメーカーの腰は重いでしょう。じゃあ希少がんにAというお薬があり海外では一定の評価がある・・・患者さんは1クール50万くらいなら負担できるとなり混合診療となって使い続けられれば・・・たとえそれが有用というデータが積み重ねられてもメーカーは「患者は自費でつかってくれるし損は無いから開発しない」としていつまでたっても承認申請されず保険収載に繋がらない可能性があります。または「日本は命がかかるとお金払うから開発はあとまわしでいいや」として日本での治験が他の国で承認されたあとになりドラッグ・ラグがさらに悪化する可能性があります。(製薬企業の日本の開発離れを生むのか?)
  5. 3)の段で提示した、卵巣がんのドキシルや2)で提示したすい臓がんのFOLFIRINOXについては、科学的根拠がある治療でありますが、一方で日本では質の高い臨床試験を行っていないとおもわれる未承認の治療が「●●療法」などとして、高額で患者に施されている現状があります。また卵巣がんはベバシズマブが承認されていない頃ではありますが、一部の自費診療クリニックにおいて、ベバシズマブの治療を希望する患者さんに「ソラエフェニブ(腎臓がんのお薬)+オキサリプラチン(大腸がんのお薬)+ゲムシタビン(卵巣がんに既承認薬)+ベバシズマブ」という治療で1クールで200万近いお金を請求されるというようなことが起きていました。オキサリプラチンは婦人科のある臨床試験グループが臨床試験を実施していますがまだ卵巣がんに対して有効性安全性のほどは分かりませんしソラフェニブに対しても同様です。患者申出療養に関しては当初どこの医療機関でも混合診療ができるような話になっていたために、科学的根拠のない(場合によってはイチャモンや呪いに近い)治療と併用されるのではという懸念もあり患者会は猛烈に反対しました。その後は実施医療機関を絞ることや専門家による審査を経るなどということになりましたが混合診療解禁と簡単に言ってしまうとこのような科学的根拠の低いものに対して野放しになる可能性もあり、患者さんがむしろ予期せぬ有害事象などで不利益を多く受ける場合もあるのです。(対象となる医薬品の質をどうするのか?)


こういった問題をクリアにしないと、結局は「治療を受けたい」ということで制度を容認したために、我々が「適切な治療を受けられない」不利益を受けるブーメランのような事態が起きるのではないかという懸念があるのです。

かつて、先進医療であったLAK療法が、”多くの患者さんに対しては効果が見られなかった”として取り下げられました。
でも、自分には効果があったのに混合診療が認められない・治療が受けられないのは不利益だとして、ある患者さんが裁判を起こされたことがあります。
実際、この裁判は医学的根拠は現行の医療制度、海外の医療制度、患者さんの人権・・・困難を極め、最高裁まで争われ大きなニュースになりました。

私は「LAK療法が、その人には有益であったのかもしれないけれど、多くの患者さんにとっては不利益だったことや、上記に示した懸念から”混合診療を安直に解禁することは患者が不利益をうける”」として反対しました。

でもここまでの文章をすべて伝えてくれる媒体はもちろんないわけで、「反対しています」というひとことコメントが紙面に載る事から、藁にもすがる思いで治療を待ってる患者さんから「殺すきか」などバッシングを受けました。

でも簡単に反対しているのではなく、


  • 患者さんに必要なくすりは患者さんに届くようにしてほしい
  • 一方で、患者さんに大きな不利益になる可能性があるものも含まれる可能性があるのでそこに対する対策をしっかりしてほしい


と、むしろ


  • 救えるいのちは救う
  • でも、イチャモン治療は入らないように、(未来の患者も含めて)患者の負担もできるだけ少ない形にして欲しい


訴えていることは理解してもらえると思います。

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5)頭から混合診療を反対しているわけではない

では、私たちがんの患者会はどういう意見を出しているのか。
決して私たちは無策で混合診療反対!を掲げているわけではありません。

●特許切れの薬に関しては混合診療できるのではないか
先の項にも書いたように、抗がん剤では、最初にその抗がん剤があるがんに承認されてから、長い時間を経て、別のがんに効果が見られる場合があります。
お薬には特許期間があり、その期間の間は先発品メーカーがシェアを独占できますが、その後はジェネリックがでてきます。

つまり、ジェネリックが出てしまってるもので、患者が少ないがんに今更科学的根拠を示されてもメーカーは開発に乗り出すうまみは無いのです。

例えば医薬品医療機器総合機構に開発に当たって相談に行ったり、承認申請をしたりするわけですが、相談や申請に高額な費用が発生します。
もちろんメーカー内で承認のための書類を作るのにも多くの人やお金が割かれます。

先に例示したすい臓がんのFOLFIRINOX(5-FU+ロイコボリン+イリノテカン+オキサリプラチンの4剤併用)は、古いお薬であり、ましてや医薬品メーカーがばらばらでした。
A社が治験しましょう!といってもB,C,D社が賛同してくれるかというと難しく、患者会は相当苦慮されていました。
これはメーカーが悪いわけではなく、メーカーもボランティアで仕事をしているわけじゃないので当然です。

悪性リンパ腫もドラッグ・ラグは深刻であり、その原因のひとつが、悪性リンパ腫が詳細にわけると何十種類もタイプがあり、それぞれのタイプに承認をとっていく形に現在なっていることがあります。
悪性リンパ腫のなかには超希少なタイプの方もおられます。
その何十種類すべてに特許切れの医薬品で治験をして、申請するなんて製薬企業に到底無理です。
それならば特許切れのお薬を患者さんに負担していただき・・・ということも考慮できるかもしれません。

分子標的薬はともかく、FOLFIRINOXのようなお薬や、シスプラチンやパクリタキセルなどのようなお薬であれば一部患者負担になっても、患者さんが負担する額は数千円~数万円で済む場合もあり、また、製薬メーカーがそのお薬の開発に乗り出せないのもわかるので、混合診療という形で(もちろん、そのデータをしっかりとって評価し、将来保険適用につなげることを約束する形)実施するのもいいのではないかと個人的には考えています。


●最先端医療迅速評価制度など既存のものをもっと進みやすくする
また高額な薬剤で、メーカーが乗り出さない場合は、いちいち患者申出療養という新しい制度を作らなくても、先進医療があります

先進医療とは、承認されてない部分を患者さんに負担してもらうという形で臨床試験を行い、将来の保険診療につなげるようにする制度です。

ただ、先進医療は、

  1. 医療機関が申請するために、その治療が受けられる医療機関が限られること
  2. 申請や薬剤費の管理など医療機関の負担が大きいこと
  3. 先進医療を実施するまでの審査に時間がかかること

など問題点も指摘されていました。

実はそのために、薬機法を施行する段に、グループネクサスジャパンとスマイリーで厚生労働省にお伺いし、抗がん剤に対しては現行の先進医療では進まないということと、そのために先進医療について特段の対策がいるのではないかと提案させてもらいました。
中医協でもご検討いただく形で「最先端医療迅速評価制度」というものを儲けていただきました。


  1. 全部の疾患を先進医療で検討していては時間がかかるので、がんだけ外出しにする。
  2. がんの専門家で抗がん剤の必要性を検討するため、迅速に先進医療の必要性を検討できる。
  3. また、これまで先進医療を実施したことが無い(先進医療を実施したノウハウが無い、臨床試験体制が不十分)な医療機関については国立がん研究センターが支援を行う形で乗り出しやすくする。

という方向性で作ってもらいましたが、実際は「医療上の必要性の高い未承認薬適応外薬検討会議」で必要と認められて1年以上開発に乗り出せない薬だとか制限がガチガチにかかっており、一昨年に1回、会議を形式的に国立がん研究センターが行なっただけで、委員の先生から「どういう意味がわからない」「誰もやりたいとおもわない」と意見が堂々とでてしまい、挙句の果てに、その後に開催されなくなったという残念なことになってしまいました。
我々も出てきた運用案が中医協で承認されたものからはるかに後退して、運用しづらいものになっていたことに目が点でした。

でも、先進医療Cをいまいちど見直すなどすれば、わざわざ患者申出療養などというものを作らなくてもいいのではないかと思います。

ただ、そのためには先進医療をもう少し医療機関が乗り出しやすい形にすること、また先進医療が促進されるよう、もっと研究にお金が投入されることが必要になります。


●医薬品アクセス制度
海外にはコンパッショネートユース(CU)という名前で、また各国方法はバラバラなのですが、患者さんの生命的倫理に基づき、人道的観点から未承認薬を提供することが一定のルールの中で行なわれています。
詳しく知りたい方は津谷喜一郎先生の「日本で承認されていない薬を安全に使う -コンパッショネート使用制度」という本を買って読まれるといいと思います。

CU制度を用いる際には、そのお薬で患者さんが命を縮めることができるだけ無いように、質の高い臨床試験同様の審査があります。
またそのデータは蓄積され、有害事象の情報などは将来のために活かされますが、患者さんが病状が進行しているということも考慮した上で、治験や薬事承認といったものに影響が無いようにしています。
また、CU制度があるからとして、製薬企業が治験をしないということが無いように、CU制度に患者が殺到してしまい治験に患者が集まらずに阻害されるということがないような配慮もされています(つまり、治験に入れる患者さんは治験にはいってもらうことが前提)

日本でもそれを導入しないといけない状況にきてるのではないかとして、2011年に開催された厚生科学審議会医薬品等制度改正検討部会(いわゆる薬事法改正を検討する場)で訴えさせていただき、厚生労働省も必要性を認めて医薬品アクセス制度というものがパイロット的に始まっています。
私自身、制度改正検討部会の委員でありパイロットにも関わっているので話しづらい部分もあるので詳細は割愛しますが、ひとつだけ例にあげると、GISTにスチバーガーの承認が部会で了承された時に、実際にその後、患者さんに届くまでに幾つかの手続きを踏む必要があるので時間がかかります。
その時間がGISTの患者さんに対しては待てない時間でもあったために、アクセス制度を用いて、国立がん研究センター東病院など一部の医療機関で人道的観点から前倒しで使えるようにという試みも実際に行なわれています。

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結局サルでもわかるといいながら、たぶん、しろめを向く人が99%じゃないかと思う文章になりました。

また、この問題には多くの既存の制度や法律が絡んでいるので、厳密にいうともっと難しくなる部分が多かったのですが、サルでもわかるとしたかったために、かなり端折ったり簡潔にしてるため、重箱の隅をつつき始めるといっぱいボロがあります。

全がん連さまが出された要望書(http://zenganren.jp/?p=360)とは若干違う事柄も入ってはいますが、全がん連さまの要望に対して私は同意しています。
本当に感謝を申し上げるとともに、少しでも混合診療に対して知ってくれる人がおられたら嬉しくもありこの文章を書きました。
もちろん、すべてのがん患者さんが、全がん連の要望書を読み、わが事として考えてくださることを祈ります。

「患者申出療養」を今更作る必要がないと上記では論じていますが、もうこれは決定されており不可避であるため、国に対しては、患者が懸念している点などを考慮していただいてより「救えるいのちを救う」大切な制度を構築してくださることを願っていますし、私たち患者会も声を上げ続けなければなりません。

一見、お金を出せば誰もが治療を受けられる制度のように思いますがリスクがたくさん含まれていること。
それよりは、「患者にとって有益と思われる治療は速やかに保険適用」されることが多くの患者さんにとって益がありそれが第一であることを知ってほしいと思います。

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【関連リンク】
全国がん患者団体連合会(全がん連)
http://zenganren.jp/

日本難病疾病団体協議会(JPA)
http://www.nanbyo.jp/

医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%96%F2%8E%96%96%40&H_NAME_YOMI=%82%A0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S35HO145&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1

先進医療
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/sensiniryo/

最先端医療迅速評価制度
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r985200000372bk-att/2r985200000372k2.pdf

医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-iyaku.html?tid=128701

日本テレビのドラッグラグのページ
http://www.dai2ntv.jp/news/druglag/

独立行政法人医薬品医療機器総合機構
https://www.pmda.go.jp/index.html

日本で承認されていない薬を安全に使う -コンパッショネート使用制度
http://www.amazon.co.jp/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%A7%E6%89%BF%E8%AA%8D%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%AA%E3%81%84%E8%96%AC%E3%82%92%E5%AE%89%E5%85%A8%E3%81%AB%E4%BD%BF%E3%81%86%E3%80%80%EF%BC%8D%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%91%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8D%E3%83%BC%E3%83%88%E4%BD%BF%E7%94%A8%E5%88%B6%E5%BA%A6-%E5%AF%BA%E5%B2%A1%E7%AB%A0%E9%9B%84/dp/453598350X/ref=sr_1_4?ie=UTF8&qid=1440308954&sr=8-4&keywords=%E6%B4%A5%E8%B0%B7%E5%96%9C%E4%B8%80%E9%83%8E